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おおきくすっ転んでスリーアウトチェンジ

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【さよなら青い空】第6話

 あら、とぴくりと片方の眉を上げただけで、彼女は無言で兵部の敬礼に答礼した。
 姿勢よくぴんと延びた背筋は小柄な彼女を少しだけ大きく見せる。
 昨夜取り乱した恥ずべき姿を子供に晒したばかりだというのに、まるで何も覚えていないかのようだった。
 気まずいな、と思ったのは兵部の方だ。
 指定された時間の三十分前に出てきたはいいが、他のメンバーはまだきていない。
 手持無沙汰にうろうろしていたところに現れたのが副官だった。
 長い髪をひとつにまとめて後ろに流している。
 軍服の上からも分かる女性らしい体は、だが不二子を見慣れている彼からしてみればただの大人の女の人だ、くらいの認識でしかなかった。
 大ぶりな枝をはべらせる木に寄りかかり黙然としている上官の手前、あまり勝手な行動はできず兵部は途方に暮れて立ち尽くした。
 じじじ、と蝉が鳴く不快な音だけが響く。
 あと何度夏を越せば決戦のときがくるのか、まだ分からない。
 そもそも次の夏を迎える前に何もかもが動きだす可能性の方が高い。
 世情は秒針を進めるごとに変化していき、ラジオから流れる雑音も兵士たちを鼓舞する軍歌や声だけが白々しく、日本という国全体が茶番を演じているかのようだった。
 ふと、この人は隊長のどんなところに惹かれるのだろう、と兵部は思った。
 優しいところか?それとも超常能力者を差別しない器の大きさか。
 兵部の知らない、違う顔を持っているのかもしれないし、きっとそれは当然なのだろう。
 聞いてみたいと思ったが昨夜の失態(彼女にとっても、自分にとっても、だ)を繰り返すのは得策ではない。
「遅いわね」
 副官が腕に巻いた細見の時計を見て苛立たしげに眼を細めた。
 それほど近くにいたわけではないが、彼女のはっきりした声に振り向いて視線が交わる。
「兵部少尉」
「……はい、副隊長」
「ちょっと、あなたの能力を見せてくれないかしら」
「え?」
 唐突な言葉に面食らう。
 たとえ訓練であっても超能力を使うのは上官の許可を得てからという規則だった。
 この場合副官がそう命令するのであれば問題はないのだろうが、彼女の真意が見えない。
「どうすればよろしいですか?」
「あなたの能力は念動力だったわね」
「はい」
「じゃああの木を一瞬でなぎ倒したり、地面に大穴を開けたりできるのよね」
「はい、副隊長殿」
 なんだそんなことか、と兵部は顔には出さず笑った。
 超能力を見たことがないらしい。
 知識だけはあるものの、半信半疑といった表情を浮かべている副官に兵部はうなずいた。
「やってみせて」
「分かりました」
 右腕を伸ばすと女は慌てるように後方へと避難していく。
 くすりと笑って集中した。
 真後ろに向けて力を放出するほど馬鹿ではないというのに、何を恐れているのか。
 だが、一般人はそうやって自分にはない力を怖れるものだ。
 たとえ傷つける気はないと分かってはいても常に青い顔をして化け物を見るような目をする。
 なんだ同じか、と深く深く息を吐く。
 ここまで集中する必要はないけれど、パフォーマンスは必要だろう。
 半呼吸のうちにいくつものエネルギーを叩きつけることを知るまで手順を踏む必要があると兵部は考えたのだった。
 あの女はヒステリーだ。
 あらゆる厄介事を想定して【模範的な部下】であることを証明しておかなければならないだろう。
 きっと世間話の延長線上にあるような態度で能力を使えば、彼女は自分を恐れる。
 刺激しないに越したことはない。
 両腕を伸ばして数十メートル先にある大木めがけ一気に能力を放てば、眩しい光が一直線に的を目がけて走った。
 大げさな音とともに白い煙があがって太い幹をまっぷたつにした後、きっかり五秒待って大木はぐらりと揺れ倒れた。
 背後で女が息を殺してそれを見詰めているのが分かる。
 兵部はにこやかな笑みを作った後振り向いて、子供らしい無邪気な仕草で首を傾げて見せた。
「すごいのね」
 他に言葉を持たないと言った風に彼女は拍手をした。
「あなた一人で一個大隊を壊滅させるくらいはできるかもね。でも最低二人一組で任務に当たるのでしょう?あの人……隊長はどういうつもりなのかしら」
 それは非難ではなく純粋な疑問の言葉のようだ。
「あの、よろしいでしょうか」
「なに?」
「超常能力とはいっても万能ではありません。僕たちだってミサイルに当たれば怪我をするし、死にます。二人一組で任務に当たるのは互いにフォローし合わなければ万一の非常事態に対応できないからです。あとは相互監視の意味もあります」
「相互監視」
 互いが互いを監視し、任務に外れた行為を行わないようにとの上層部の意向が見え透いていた。
 隊長はそれを隠そうともせず、兵部たちに苦笑しながら伝えたのだった。
 人から外れたマイノリティである自分たちにとって、チームは仲間であり家族だ。
 それを上の連中は理解していない。
 個人の感情で仲間を殺害することも厭わぬ化け物だとでも考えているのだろう。
「きました」
 よく知った気配を感じて振り返れば、特殊部隊の仲間たちが駆け寄ってくるところだった。
 中に不二子の姿もある。
 不二子は兵部と副隊長が向かい合って話しているのを怪訝な表情で見ながら近づいてきた。
「遅れて申し訳ありません」
 宇津美が完璧な敬礼をしながら告げると、不二子たちもそれに倣う。
 副隊長はちらりと時計を見て、集合時間の十分前なのを確認するとうなずいた。
「今ね、兵部少尉に能力を見せてもらっていたの。あなたたちも同じような力があるのでしょう?それを見せてもらいたいの」
 ほら、と無残に倒された大木を見やってそう言うと、宇津美は苦笑いを浮かべながら、それでも敬意を崩さずにやんわりと言った。
「副隊長殿。能力は個人で差があり、また種類もばらばらです。皆が皆同じような能力を発揮できるわけではないのです」
 精神感応力者に念動力を見せろと言っても無理な話である。
 だが、副隊長は不意ににやりと笑みを浮かべると、言った。
「知ってるわ」


OVAと新刊見たー!
最近さむでーはどうなってるんだろー全然見てないんだが・・・。

拍手ぼちぼちありがとうございますー。
ちょっと最近アレでコレな感じなのですがなんとか週一更新できるようにがんば・・・る(笑)

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