不二子は、うつむきながら淡々と話す義理の弟を黙ってみつめたまま思いを巡らせていた。
彼が隊長とそこまで親しくしていたのにも驚いたし、新しくやってきた女性副官の異様な行動に弟が翻弄されたという事実が彼女を苛立たせる。
「それで叩かれたわけ?」
呆れたような声音の中に、ぞっとするほど冷やかな色を含ませて尋ねる姉に、兵部が顔を上げる。
「姉さん?」
「気づかないとでも思ったの?手加減はしたみたいだけど……いいえ、きっとその女、まるで喧嘩の仕方を知らないんでしょうね。副隊長と言っても現場で指揮を執るタイプじゃないもの。彼女、軍司令部につながりがあるみたいよ。ロジスティクスに造詣が深いんですって。それがどうしてこの部隊にきたかは分からないけれど、隊長を追いかけてきたんじゃないかしら。確かにそういう方面で明るい人ってここにはあまりいないしね」
「詳しいね」
「宇津美君に調べてもらったの。そういう情報収集は彼の得意分野でしょ。いくら自分たちの上官のことだからって、頭から信用できるかどうかなんてわからないじゃない。とりわけ私たちにとってはね」
昨日と言っていることが違う、と兵部はおかしくおもった。
隊長の古い知り合いだからきっといい人だろう、と言っていたのは誰だったか。
だがそれを指摘しても怒られるか無視されるか、どちらにせよ良い結果にはならないことはじゅうぶんに予想できたので、兵部は黙っておくことにした。
副隊長に叩かれたのは事実だが、どちらかというとぶちっと堪忍袋の緒が切れて思わずひっぱたいてしまった、という子供っぽい行動だったので怒るに怒れず、ただすみませんと頭を小さく下げた兵部だった。
「僕もおとなげなかったんだよ。あの人僕を叩いた後泣きそうな顔して出て行ったもん」
「あんたねえ……」
そういう言動が可愛くないのだ。
正真正銘の子供が、おとなげなくて何が悪いのか。
ただ、不二子も含め超能部隊に所属する若者は子供らしい子供でいることはできない。
大人に愛され保護されるという特権を超越している。甘えたいとは思わないが、理不尽だ、と思う。
不二子にとって自分はともかく、三つ年下の弟がそうやって何もかもを悟ったような目をする瞬間が大嫌いだった。
(本当に可愛くないんだから)
それでも、たまに純粋に目を輝かせて、姉さん姉さん、と呼んでくるときは非常に嬉しいのだけれど。
ただそれを表だって告げることはしない。
「あんた大丈夫?この先副隊長とうまくやっていける?」
上官とそりが合わないということは部下にとって非常にやりづらいこととなる。
性格的な問題はあっても、命令は絶対だ。
そしてその規律をじゅうぶん理解している上官が感情に任せて部下をいびることがありうるのは誰もが分かっていることだった。
特殊部隊では隊長がああいう性格なので仲間としてうまくやっていけているが、もし超常能力者に理解がなかったり、性格のあわない上官だったらと思うとぞっとする。
やり辛いだけではない、それは生活と命に関わることだ。
自分たちを実験動物か兵器または化け物としか見なさない上官のもとで本来の力を発揮できるとは思わない。
「大丈夫だと思うよ。なるべく近づかなければいいんだし」
「そういう問題じゃなくて……」
淡々と答える兵部に、不二子は珍しく困ったように眉尻を下げて、だが何も答えなかった。
ぼちぼち拍手頂いてて嬉しいです。ありがとうございます。
お返事遅れてすみません。
>7/12
確かに隊長←兵部なんですよね。
ていうか逆だったら怖いわ!(笑)
割とこういう二次創作で女性が絡んでくるのって珍しい(嫌がられる?)んですが、ちょっとした生々しさを表現してみたくて副隊長を盛り込んでみました。
そのうちキャットファイトが見たいです(他人事のように)
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