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おおきくすっ転んでスリーアウトチェンジ

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【さよなら青い空】第3話

 普段なら寝起きのそれほど悪くない弟が姉の部屋の扉を叩きに来る時間を大きく過ぎても、彼は訪れなかった。
 いい加減業を煮やした不二子は不機嫌な顔を鏡に映して乱れた髪を直しながら、きっちり襟のボタンを閉めて部屋を出る。
 今日は久々の休暇が与えられているため同じ超能部隊に所属する仲間たちはまだ眠っているようで静かだ。
「まったく、あの子も寝坊しているのかしら」
 だらしないったら、とぷりぷりと頬を膨らませ、弟の部屋の前で息を吐く。
 いくら休みだからと言って惰眠をむさぼるなんて、良家で育てられた身分として恥ずかしいとは思わないのかしら。
 どんどんどん、と遠慮なく扉を叩いて反応を待つ。
 五秒ほど待って再び腕を上げると、かちりと鍵を回す音がしんと静まり返っている廊下に響いた。
「何よ、起きているなら開けなさいよ」
 もう、と文句を言いながら扉を開ける。目の前には最近また少し背が伸びた弟がぼんやりと突っ立っていた。
一応身支度はすませたらしくいつもの軍服姿だったが、髪はぐしゃぐしゃで目は赤く充血している。
 顔色も良くない。
 ひょっとして具合が悪いのかと心配して顔をのぞきこむ不二子から目をそらして、兵部は部屋の内部へと戻った。
 つられて彼の後に続き扉を閉める。
 たてつけの悪いそれはふわりと白い綿埃を舞いあがらせながら、わずかな隙間を残して停止した。
 忌々しげに不二子はそれを力任せに閉める。
 弟はこちらに背を向けたまま、うつむいているようだった。
「京介、どうしたの?気分でも悪いの?」
 だったら寝ていればいいわ、と優しい声で兵部の背中に触れた。
 びくりと薄い背が揺れる。
「京介?」
「姉さん、どうしよう」
「何が?」
 うつむいたままの弟の表情は前髪に隠れて見えない。
 ただ、眠れなかったのか赤い目が気になった。
 不二子はまだ自分より少しだけ低い位置にある弟の肩に手を置く。
「どうしたの?何かあったの?」
 何か悪い知らせだろうか。だがそれならばまず自分のところへくるはずだ。
「昨夜、夜中に、あの人がここへ来て」
「あの人?隊長?」
 それならば、そう珍しいことでもないだろう。
 特に兵部は隊長に懐いているし、たまに隊長が寝る前に兵部の部屋を訪れて何かと話をしているのも知っている。
 話題は他愛のない世間話だったが、それでも兵部の、誰にも言えないような心の内を、大人である彼は不二子よりも知っているようだった。
 それを悔しいとは思うが、じゃあ私も、と割って入るほど不二子はもう子供ではなかったし、また異性には話しづらいようなこともあるだろうと納得していた。
 だから、もし隊長と昨夜ふたりで話をしたのであれば、兵部のこんな様子は絶対におかしい。
 ベッドに腰をおろして両足に肘をつき、顔を覆うようにして兵部は項垂れた。
 不二子は彼の隣に座ってじっと待つ。
 ふたりぶんの重みを乗せた粗末なベッドがぎしりと音を立てる。
「あの、女の人が」
「……え?」
 どういうこと、と首を傾げた。
「女の人って、新しく来た副隊長のこと?」
「そう」
 なぜ、と瞬時に疑問を抱く。なにやらいかがわしい想像をしそうになって不二子はありえないと苦笑した。
「何をしにきたの?部隊に関係あることかしら。でも私のところへは来なかったわ」
「どうして僕のところへ来たのかは分からない」
「何をしに来たの?」
「話をしに」
「何の?」
「……隊長の話を」
 ぽつりぽつりと紡ぐ兵部の説明は途切れ途切れで、理解不能だった。
 新しくやってきた女性の副隊長が、真夜中に、部下(になる予定)の部屋へやってきて突然隊長の話をしにきたのだと言う。
「どんな内容か教えてくれる?」
 沈黙が降りた。
 だが先を急かすようなことはせずに不二子はじっと我慢する。
 短気な彼女にしては珍しい優しさだった。
 早く言いなさいよ、と内心思いながら、しかし弟は青ざめた顔でおそらくどう説明しようか悩んでいるのだろうと思った。
「良く、分からないんだけど」
「うん」
「どうしてそんな話を僕にするのか、全然分からなかった」



区切りがいいのでここまで。

拍手ありがとうございますー。
確かに兵部の少年時代は、世の中そのものは暗かったけど隊長に撃たれるまではキラキラしてたんだろうなあと思います。不二子さん以上に未来は明るいものだと信じて疑わなかったんだろうなあと。
兵部に萌えるのはそういう過去とそれ以降のギャップがあるからでしょうね~。

あ、夏コミ委託情報ありがとうございました。せっかくですがちょっと遠慮させて頂きます~。
いやあ全く接点のない方にお願いしたりするのもどうかと思うので・・・。
気にして下さって(?)ありがとうございます。

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